「はい・・・はい、判りました。お待ちしています」

受話器を置いて居間に戻る志貴。

「志貴、師匠達何だって?」

盟友の姿を認めた士郎が尋ねる。

「ああ、念の為欧州を偵察してからこっちにくるって」

「そうか・・・」

落胆の為か疲労の為か・・・おそらく両方だろう・・・力のない声で応じる士郎。

「それと士郎、サーヴァント達は?」

「ああ、ランサーは俺の部屋に、バーサーカーはあの体格だからありったけの毛布をかけて中庭に、残りのセイバー、ライダー、キャスターに関しては凛が客間に寝かせている」

「わかった・・・それと士郎、お前も休め。かなり疲れているんじゃないのか?」

「いや・・・大丈夫・・・」

「大丈夫ではあるまい。顔色が悪いぞ衛宮」

そしてこの居間にいるのは葛木宗一郎。

全身を包帯でぐるぐる巻きにされ一通りの治療は済ませている。

後遺症の残る傷が一つたりとも無いのが救いとも言える。

「ええ・・・大丈夫です。師匠達に状況を報告してから少し休みます・・・それに師匠の報告以外にも一仕事あるし」

前半は宗一郎に、後半は志貴に告げる。

「一仕事?」

「ああ・・・出来れば避けたいけどな」

そう言うと同時に

「士郎」

「先輩」

「シロウ」

怖い笑みを浮かべた凛、桜の遠坂姉妹と完全な第三者として面白がるイリヤスフィールが入ってきた。

蒼の書四『合流』

「はい、何でございますか?」

その三人に丁重な言葉で返答する士郎。

彼にとってそれは降伏を意味していた。

志貴はといえばやや引きつった表情で眺めている。

彼自身結婚前、似たような事態に追い込まれた事など多々あるので、士郎を笑う事は出来ない。

「早速だけど・・・あんたなんで私達に『大聖杯』の事とか全部隠していたのかしら?」

「そうです、先輩酷過ぎます」

「そうよね。それも私まで置いてけぼりにして」

「それは・・・」

「私達に迷惑をかけたくなかったの?ふざけないでよ。確かに冬木は遠坂の管理地だけど『この世全ての悪』なんてとんでもないものが出現するのを指を咥えて見ていられる訳無いじゃないの」

「そうです!言って貰えれば私達も協力しました」

「まったくよ!シロウはもう少し他の人間も信用した方が良いわよ」

「・・・・・・」

「あ~良いかな?」

苦渋の表情の士郎を見かねたのか志貴が口を挟む。

「えっと、遠坂さんだっけ?気持ちはわかるけどそこまでにして置いてくれないかな?士郎も独断専行もあったかも知れないけど、それは君達の事を考えての事なんだし」

「そんな事は判っているわよ。それでも気に食わないだけよ」

「・・・本当にごめん」

「まあ良いわ。言いたい事は言ったし」

「そういえば・・・ねえシロウ、聞くのを忘れていたけどこの人誰?」

「そう言えばそうだったわね。士郎こいつ誰なの?随分親しいようだけど転移魔術を使えるなんて何者なのよ」

「イリヤ、人を指差すな。そういや紹介していなかったな。改めて紹介するよ。俺の友人・・・いや、盟友と言っても良いかな?とにかく俺にとっては無二の盟友の」

「初めまして。七夜志貴と言います」

志貴の紹介に

「七夜??」

まずポツリと呟いたのは宗一郎だった。

だが、その言葉は小さく他者に聞き取れるものではなかった。

「へっ?志貴??」

「先輩・・・志貴って・・・」

「あの・・・七人囲っている女誑し??」

「・・・士郎随分な紹介だな」

「おい、凛、俺はそこまで言っていないぞ。確かに七人奥さん貰っているが」

「でも似たようなものでしょ?」

「・・・」

「・・・」

「・・・悪い志貴」

「・・・ま、まあ気にするな。よく考えてみれば当然だし」

顔を見合わせてため息をつく二人、とそこに

「ねえシキって言ったわよね」

真剣な表情でイリヤが尋ねる。

「ああ、そうだけど」

「貴方、もしかして『真なる死神』??」

「「!!!!」」

イリヤの言葉に姉妹が同時に立ち上がる。

「ちょっと!イリヤどう言う事よ!!」

「し、『真なる死神』ってあの『真なる死神』ですよね??」

「そうよ。大体『真なる死神』が二人三人いたらたまらないと思うけど」

「そうじゃないわよ!どうして彼が『真なる死神』だなんてとんでもない言葉が出るわけ?」

「簡単よ。シキってシロウの友人なんでしょう?だからよ」

「だから、どうして先輩の友達だから七夜さんが『真なる死神』だと言う結論になるんですか?」

「まだ判らないの?リン、サクラ、本当に鈍いわね」

「だからわからないから・・・」

言葉の途中で凛が口をつぐむ。

どうやらある結論に行き着いたらしい。

それは桜も同様だった。

士郎

先輩

同時に口を開く。

そういえば一番肝心な事聞き忘れていたわ

先輩の魔術の師匠って誰なんですか?

もちろん二人目の方よ

遂に来た。

士郎は真っ青になって全身をガタガタ震わせている。

出来れば言いたくない。

だが、言わねばもっと酷い眼に合う事は明白。

覚悟を決めて士郎は告げた。

・・・キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ・・・

覚悟を決めた割に声は小さかったが。

「「」」

姉妹の声がはもる。

・・・キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ!!現存する五人の魔法使いの一人、『魔導元帥』とか『万華鏡』と呼ばれている人です!!

一転してやけくそで叫ぶ士郎。

じゃあ・・・あんたが・・・

あの・・・『錬剣師』なんですか?

対照的に静かな声で尋ねる遠坂姉妹。

それにもはや声もなくただ頷く士郎。

そんな士郎の頭を鷲摑みして

士郎少し話があるんだけど良いかしら?

あくま・・・いや、まおうの笑みで言う凛。

クスクス・・・私も是非お話したいと思っていたんです。姉さん一緒にいいですか?

そしてそれに呼応してこちらはまじんの笑みで姉に問いかける桜。

ええ無論良いわよ

残忍な死刑宣告が告げられる。

「あっじゃあ私も行くわ」

更にイリヤまでもが同行すると言い出した。

それも極めて楽しそうな笑顔で。

「な、なあ」

志貴が止めようとしたが、

七夜さん少しくつろいでいて下さい

ちょっと私達士郎に大切な話しがありますから

姉妹の笑みに完全に呑まれてしまった。

そこに士郎と視線が合う。

(頼む!志貴)

(悪い・・・俺も女房残してあの世に行くのは早過ぎる)

そして無慈悲に襖は閉められた。









「士郎・・・強く生きてくれ・・・」

惨劇が起こっているであろう襖の向こう側に向かって思わず手を合わせる志貴。

と、そこに

「すまないが」

居間に残っていた最後の一人・・・葛木宗一郎が口を開く。

「はい?何でしょうか?」

「七夜黄理殿は健在か?」

突然の言葉に志貴の方が絶句する。

何故目の前の男は父の名を知っているのか?

「・・・失礼ですが、父とはどういった関係で?」

警戒も露にそう尋ねる。

「なるほど彼の息子か・・・面影があるな・・・何それ程親密な関係ではない。私が少年だった頃一度会った事があっただけだ」

「はあ・・・それで」

「その時に八点衝を見せてもらってな・・・」

「八点衝を?」

志貴は驚く。

父がむやみやたらに他人に『七技』を見せる訳が無い。

何か理由があるのだろうか?

もしかしたら気まぐれの可能性もある・・・と言うかその可能性が最も高いが。

「父は今も元気です。ただ、重症を負っていますので今は完全な隠居状態ですが」

「そうか・・・時の流れと言う奴か・・・」

志貴の言葉に静かに呟く宗一郎がいた。

「そうですね・・・」

志貴も頷く。

「それにしてもよく似ているな」

「そうですか?親戚からは似ていないと言われますけど」

「常に見ていれば違うのかも知れんが私から見れば良く似ている」

「そうですか」

そんな穏やかな会話のBGMには微かに断末魔を思わせる悲鳴が木霊していた。









そして二十分後・・・

「士郎・・・大丈夫か?」

「ああ・・・志貴生き延びたぞ・・・」

ふらふらになりながら士郎が一応の生還を果たした。

「生きていたんだな・・・俺はてっきり殺されているか思ったんだが・・・」

「志貴・・・何が一番きついかわかるか?」

「何が?」

「・・・生かさず殺さずだ」

「・・・悪かった士郎。俺が全面的に悪かった」

漫才を思わせる会話の中、

「ったく・・・何だってこいつが・・・」

「姉さん・・・この位にして・・・」

「そうよリン」

ぶつぶつ言いながら三人も戻ってくる。

一応、士郎も疲労困憊しているという点をある程度考慮してくれたのだろう。

「で、本当にあんた・・・」

「ああ、大抵の連中からは『真なる死神』って呼ばれている」

「それで納得がいったわ。シロウのあの戦闘力。貴方が手ほどきしていたの?」

「いや、士郎の戦闘法は完全に士郎の我流だ。俺が手ほどきしたのは戦場における心構え。後は戦場を提供したくらいだけど」

「あの・・・戦場と言うのは?」

「ああ、死都さ。そこの制圧を士郎と二人でよく行っている」

「ふ、二人?死都を二人で??」

「ちょっと!!それって危険過ぎよ!!」

「そうですよ!!そんな事」

「いや、現に俺達二人で何個か死都を制圧したんだが」

「・・・嘘・・・」

「まあ、時折人数も増える・・・」

「・・・志貴」

「ああ」

不意に志貴の会話が止まる。

そして息も絶え絶えだったとは思えないほどシャキと士郎が起き上がる。

「どうしたの?」

「ああ、師匠が来たようだ」

そう言うと二人は立ち上がり玄関に向かう。

その後ろを凛・桜、イリヤもついて来る。

そして、玄関に到着すると、絶妙なタイミングで引き戸が開かれる。

「士郎久しぶりだな」

「師匠、ご無沙汰しております」

紛れも無い遠坂の大師父キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグが立っていた。

「だ、大師父!!」

「ほう、遠坂もいるのか?」

「ええ、『聖杯戦争』も終わりましたので全て話しております」

だが、ここに来たのは彼だけではなかった。

「ハロー士郎元気?」

「元気でもなさそうやな~」

「蒼崎師、それにコーバック師まで」

「先生?それに教授も一緒に?」

続いて現れたのは青子とコーバック。

「まあの、どうせやから志貴と士郎の中を定期健診せなあかんからの」

「ああ、そういやそんな時期でしたか?」

そんな事を話しているが後ろでは三人が三者それぞれに呆然としている。

まあ当然といえば当然であろう光景が広がっているのだから。

「取り敢えず師匠、上がって下さい。詳しい報告を・・・」

「ああ、だが、まずは・・・志貴」

意味有りげに志貴に視線を向けるゼルレッチ。

「はい・・・士郎」

「ん?どうし・・・」

志貴の方に顔を向けた次の瞬間、

「てりゃ」

間の抜けた声で青子が士郎の頚動脈に一閃、一撃で士郎を昏倒させる。

「ふう・・・やっぱり士郎疲れきっているわ」

「そやのぉ~いつもの士郎やったら、かわすか食らっても持ち堪えるんやが」

だが、そんな中激高する者も当然いる。

「せ、先輩!!」

「シロウ!!大丈夫!」

「ちょっと!!何するのよ!!」

桜とイリヤが駆け寄り凛が相手が誰かも忘れ食って掛かる。

「まあ落ち着きなさい。士郎を」

だが、言葉を最後まで言う前に第二波が唐突に現れた。

「シロウ!!」

奥から暴風の如く現れたのは蒼銀の騎士・・・セイバーだった。

「!!魔術師(メイガス)!そこを動くな!!」

数メートルを零コンマ五秒で到達して士郎を昏倒させた蒼子に不可視の剣を叩き込もうとする。

だが、その剣は

「も~落ち着いて人の話聞きなさいよ」

こちらも突然現れたとしか思えない速度で純白が良く似合う絶世の美女が人差し指と中指ではさみ止めていた。

「なっ!!!」

絶句するセイバーとは裏腹にその美女は軽くセイバーを放り投げる。

「!!くっ」

着地するが先程の様に突っ込まずに間合いを取る。

目の前のやる気の無い表情の美女が自分と互角、もしくはそれ以上の存在だと認めたからだ。

「おい、アルクェイド?お前も来たのか?」

「うん、私だけじゃないわよ」

「ひょっとして・・・全員いると」

「姉さん達はもう直ぐ着くと思うわ」

「そうか」

「あ、アルクェイド?・・・まさか・・・アルクェイド・ブリュンスタッド??」

凛が呆然とした口調で尋ねる。

「違うわよ」

それに対してアルクェイドはあっさりと否定する。

「へ??で、でも・・・」

「だ・か・ら!!今の私はアルクェイド・ナナヤ・ブリュンスタッド。今は志貴の奥さんなんだから」

同性ですら美しいと思ってしまう満面の笑顔で志貴の腕に絡みつくアルクェイド。

それを苦笑しながらされるがままにされる志貴。

「やれやれ・・・」

「またのろけが始まったで」

日常茶飯事なのだろう。

ゼルレッチにコーバックは溜息をつく。

「まあ落ち着きなさい。別に士郎に危害加えるつもりでしたんじゃないんだし」

「じゃあ何だって言うのよ!!」

「士郎を休ませる為や」

「休ませる?だったら何であんな・・・」

「普通に言って士郎が休むと思うか?」

「そ、それは・・・」

「確かに少し手荒だけど休ませるにはこれしか手が無かったのよ」

「そうだな。士郎どうしても無理するからな。それに本人は気付いていない様だったが、ホルスター四つ解放の上、『革命幻想』二発、『投影反映』三連続使用、これだけをたった三日間で集中して使用していたんだ。魔術回路が酷使して焼き切れかかっていたからな」

「そんなに発動させたんかいな?はぁ~士郎も大盤振る舞いやな~」

大袈裟にため息を吐くコーバック。

「とにかく士郎を部屋で寝かせましょう」

そう言って士郎を担ぎ上げようとした志貴だったが誰かに奪われた。

「へっ?」

その視線の先には士郎を担いでいる青の皮鎧を身に着けた男・・・ランサーがいた。

「部屋に連れて行けば良いんだよな?」

「ああ・・・」

やや呆然として頷く。

「んじゃ連れて行くわ」

そういって飄々と奥に消えていくランサー。

「そういえば聞き忘れていたけど・・・」

呆然から回復した凛が自身のサーヴァントである・・・いや、あったセイバーに尋ねる。

「どうして貴方達まだ現界しているの?」

もう彼女達を降ろす為の『大聖杯』も存在しない。

それでもマスターと再度使い魔として契約すればまだ繋ぎ止める事が出来る。

だが、士郎達マスターはそれを行っていない。

だとすれば未だ残れる筈がない。

いや、まだ残れるほどの魔力が存在していたとしてもそれはもう微々たるものに過ぎない筈。

だが、セイバーにランサーの動きは明らかに余力を持ち合わせたものだった。

その疑問に対してセイバーはやや難しそうにうつむく。

「申し訳ありませんリン、私にもどうしてまだ残っているのかそこがわからない。ですが今、私の体内には魔力が満ち溢れているのです。それこそ無尽蔵に・・・しかもリンとの契約は切れているのにも関わらず」

「え!!」

「私やランサーだけではありません」

「セイバーの言うとおりです」

そこに更に現れたのは紫の髪に黒のスーツを纏ったライダー。

「ライダー!!貴女も?」

「はい、サクラ、意識を失ってから今眼を覚ましたのですが、サクラとの契約は切れているにも拘らず魔力は自然に湧き上がっています。いえむしろ・・・」

「多分貴女の推測どおりでしょうね。私達に注がれている魔力は明らかに別の場所から注ぎ込まれている。それぞれマスターとの契約は切れてその代わり何かと繋がった。そう考えた方が自然ね」

更に現れたのは紫のフードを取り、予想より清楚な印象を与える素顔をさらけ出したキャスター。

「じゃあ何?セイバー・ランサー・ライダー・キャスター、あんた達完全に独立して現界出来るって言うの?」

「リンの興奮も当然だと思います。ですが私達としてはそうとしか言えないと言うのが現実なのです」

「嘘・・・それじゃあまるで受肉じゃないの・・・」

だが、更に驚きをもたらす事が起きた。

「セイバー達だけではない。どうやら私にも同じ事が起こったようだ」

重々しい重厚な声が玄関から響く。

一同が振り向くとそこにはどこかで見た顔つきの男が立っている。

だが、仮にこの男が彼だったとして体格が一致しない。

彼は二メートルを軽くオーバーする巨大な壁だった。

だが、目の前の男の身長は百九十に届くかどうかほど。

長身である事は間違いないが、彼とは一致しない。

だが、そのまとう空気は紛れも無い彼だった。

「・・・ひょっとして・・・」

「・・・バーサーカー・・・??」

イリヤの呆然とした声に

「そうだ、マスター。私にも事態は不明だが、意識を取り戻してみれば私は私としての自我を取り戻し、更には身体も元の状態に戻っていた。どうしてこのような事になったのか知らぬが、明らかに『大聖杯』崩壊に立ち会った我ら五騎のサーヴァントは全員受肉している。同時に与えられたクラスの括りからも解放されているようだ」

バーサーカー・・・いや、今となってはヘラクレスと呼んだ方が相応しい・・・の言葉にセイバー・ライダー・キャスターが頷く。

「これって・・・一体」

流石の青子も思いもよらない事態に途方に暮れている。

「まあ、取り敢えず上がるか」

志貴の言葉に全員頷いた。









居間に到着すると志貴が手馴れた手つきまずは、コタツを二つくっつけてから急須を四つ、更に湯飲み茶碗二十個を用意する。

「・・・随分と知っているみたいねあんた」

凛がやや憮然とした口調で志貴に尋ねる。

「まあ、何回も尋ねているから。勝手知ったる他人の家と言った所だ」

お湯の方は幸い教会に出かける前に沸かした分が残っていたのでそれを使う。

そして追加で沸かす為、やかんにお湯を注ぎそれをコンロにかける。

そしていつの間にか現れた赤い髪の女性が手馴れた手つきでお茶を注ぐ。

「ねえあなたも『真なる死神』関連の人?」

代表してイリヤが尋ねる。

「あらら~ご紹介がまだでございましたね。初めまして、私、七夜琥珀と申します」

朗らかな笑顔のまま深々と一礼をする琥珀。

「じゃあ貴女も七夜さんの奥さんなんですか?」

「はい。翡翠ちゃんと一緒に志貴ちゃんの正妻をしています」

「せ、正妻??」

「二人で?」

と、今度は

「はい、『七夫人』の皆さんと話し合い私と姉さんの二人が志貴ちゃんの正妻とさせて頂いております。申し遅れました。私は七夜翡翠、こちらの琥珀の双子の妹です」

同じ容貌の女性が現れこちらは凛とした振る舞いで深く一礼をする。

「つまり、あなた達姉妹揃ってシキの妻になったの?・・・」

「そうですよ~私も翡翠ちゃんも志貴ちゃんに」

「姉さん」

放って置くと惚気に入りかねない琥珀を翡翠が止める。

それを横目で見ながら

「・・・美味しい」

「リ、リーゼリット!!何をしているんです!!私達はお嬢様の後ろで立っているべきなのですよ!!」

やはりいつの間にか現れ、コタツに入りのほほんとお茶を飲むリーゼリットとそれを叱責するセラ。

「構わないわ。セラ、貴女も入りなさい」

「で、ですが・・・」

「あら?セラは私の言う事が聞けないのかしら?」

「そ、その様な事は・・・判りました」

しぶしぶセラもコタツに入る。

「志貴君、衛宮君のお茶入れておこうか?」

「いや、士郎は寝てるから良い」

「ねえ、志貴君。お茶菓子何処だったけ?」

「そこの戸棚」

「志貴、どうでも良いですが、コタツが足りません」

「兄さん確か隣にまだあったはずです」

「わかった少し待っていてくれ」

また志貴の方では茶色っぽい髪を凛と同じくツインテールとした女性、どう見ても志貴より年下にしか見えない黒髪に黒のドレス姿の少女、腰どころか足首まで届く紫の髪を三つ編みとした生真面目さが印象に写る女性と艶やかな黒髪の口ぶりや持つ空気から深窓の令嬢と思わせる女性が志貴に色々と聞いたり言ったりしている。

「皆取り敢えず自己紹介していてくれ」

そういって志貴は増設するコタツを持ってくる為に居間を出て行く。

「さてと、じゃあ改めて自己紹介するわね。私はアルクェイド・ナナヤ・ブリュンスタッド」

「アルクちゃんの姉のアルトルージュ・ナナヤ・ブリュンスタッド。まあ『黒の姫君』って言った方がピンと来るかも」

「・・・し、死徒の姫君・・・」

「噂って本当だったんだ・・・『真祖の姫君と死徒の姫君が真なる死神を取り合っている』って・・・あまりにも馬鹿馬鹿しいと思っていたけど・・・」

「結局は揃って志貴に貰われちゃったけど」

「ええ」

吸血姫姉妹が揃って笑い合う。

「私達も改めまして、七夜琥珀と申します」

「琥珀の妹七夜翡翠と言います」

「私は七夜秋葉です。遠野より兄さんの下に嫁いで来ました」

「・・・えっと・・・遠野ってまさかあの遠野??」

「あら?ご存知なのですか?」

凛の質問に秋葉は悠然と笑う。

「ええ・・・表向きは日本でも指折りの大財閥、裏では屈指の混血一族として有名だから・・・」

「次は私ですね。シオン=ナナヤ=エルトナム。元アトラスの錬金術師です」

「アトラスって・・・協会の穴倉?」

「そうです。あのアトラスです」

「はあ・・・いろんな所から女性掻っ攫っているのね・・・」

「失礼ですが私達は志貴個人に惹かれて志貴の周囲に集っただけです。結果的にはこのような状態となりましたが、私達は誰一人この状態に異論を唱えていません」

「え、ええ判ったわ。失言だったわ。改めて謝罪するわね」

「えっと・・・私は七夜さつきです」

「じゃあ今度は私達ね。私は遠坂凛。冬木の管理者よ」

「遠坂桜です」

「イリヤスフィール・フォン・アインツベルンよ」

「イリヤスフィール様のお付のセラと申します」

「リーゼリット、イリヤの話し役」

「違うでしょ!!貴女もお嬢様の世話役でしょう!!」

「初めまして葛木宗一郎です」

「後は・・・元サーヴァントだけど・・・」

「紹介したくないようだったら別に良いわよ」

「そう言う訳にも行きません。他の方が名乗られて私達が名乗らないのは礼を逸します。私はアルトリア。『聖杯戦争』ではセイバーのクラスを与えられていました」

「サーヴァントライダー、真名はメドゥーサです」

「俺はクー・フーリン。ランサーのサーヴァントだった」

「キャスターのサーヴァント。メディアよ」

「元バーサーカーのサーヴァント、ヘラクレスだ」

「最後はワイらか。ワイはコーバック・アルカトラス。死徒二十七祖第二十七位をとりあえず張っておる」

「蒼崎青子よ。一応現存する五人の魔法使いの一人って事になっているわ」

「大半は知っているがキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。死徒二十七祖第四位、そして蒼崎と同じく魔法使いの一人だ」

簡単に自己紹介を終えると同時に志貴がコタツとコタツ布団を持ってくる。

そして、手早く増設を済ませると自分も入る。

「さて、自己紹介も済んだ事だが、士郎が眼を覚ますまでは本題は保留とする。その替わりと言っては何だが、何か質問はあるか?可能な限り答えるが」

その声に真っ先に凛が尋ねる。

「大師父、士郎は本当に大師父の弟子なんですか?」

「ああ、私の一番新しい弟子だ」

「どうして先輩を弟子にしようとしたんですか?」

「きっかけはお主達の様子でも見てみようと思ったら士郎の屋敷に迷い込んでしまってな。そこで士郎の投影を見たんだよ」

「ワイも永く生きてきたがあんな投影は始めてやったで」

「それで老師は士郎を志貴に続く奇才と踏んで弟子にしたと言うわけ」

「なるほどね。それでシロウに何処であれだけの膨大な宝具を見せたの?」

「それは簡単だ。士郎をさまざまな平行世界に連れて行きそこで宝具や業物を見せて回った」

「へ、平行世界!!そ、そんな簡単に他人に見せて良いんですか?」

「構わんよ。士郎がそれを自慢するような奴で無い事など知れていよう」

「そ、それはそうですけど・・・」

「魔法使い、私も一つ尋ねたい。シロウは終生ユートピアを・・・何処にも無い楽園を目指すと言っていました。それは貴殿の師事ですか?」

「へっ?ユートピア??・・・また随分と大雑把な目標掲げるもんねあいつは・・・」

「それは士郎が自分の意思で目指すと決めたものだ」

「俺たちも随分と反対したんだが・・・士郎は意地でもそれを貫くって聞かなくて・・・あいつの頑固さは君達も良く知っていると思うんだけど」

「そうですね・・・シロウは頑固だ」

「おまけに人の言う事をてんで聞かないし」

「それに自分の事を全く省みません」

「でも・・・シロウは強くて・・・優しいよ・・・」

その後も主には士郎に関する質問が飛び交う。

「私もよろしいですか?」

最後となりメディアが口を開く。

「何かな?神代の時代に生きた魔道の王女よ」

「あの坊やの魔力・・・あれは一体どう言う事です?」

メディアの口調と視線は鋭く躊躇いを許さぬものだった。

「・・・それは彼の魔力量の事か?それとも魔術回路の事か?」

「両方です!僅か二十七程度であれほどの魔力、そしてその魔力を保有できる回路・・・共に人間のさせる業とは思えません」

「人間のなせる業じゃないって・・・」

「嬢ちゃん、何故魔術師は魔術回路の数を増やしているかわかるか?」

「へ?それは・・・魔力の保有量を増やす為でしょ?」

「そうですね。その為に魔術師は回路の数を増やすんだと聞いています」

「その通りや。魔力を水に例えれば回路は地面に掘った穴。そこに水を蓄えていざっちゅう時にその水を汲み出して魔術の糧・・・すなわち魔力とするんや」

「そうよ。でもあの坊やはその前提を既に逸脱している」

「どう言う事ですか?」

「一般の魔術師は一度魔術回路を開けてしまえば後は開放・閉鎖するだけ。でも坊やはそうじゃない。もう開いた魔術回路を再構成している形跡があったわ。それも何回も」

それに気付いたのは『聖杯戦争』中、メディアが士郎を操り柳洞寺までおびき寄せた時である。

だからこそ士郎を見くびり傀儡に仕立て上げようとしたのだが。

「さ、再構成!!何回も!!それって無駄じゃないの!!!!」

「最初は私も呆れ果てたわ。“ここまで無能な坊やだったのかって”でも・・・」

「気付いていよう。士郎に限っての話しだが、再構成を続けるのは無駄な作業ではないと」

「どうしてですか?先程の例えで言えばもう掘り終わった穴はこれ以上どうする事も出来ない筈」

「そうね。だからこそ魔術師は代を重ねる度に一本でも多くの魔術回路を持つ子孫を持たせようとする。でもね・・・士郎は前提・・・いえ根本から普通の魔術師とは大きく違っている」

「何が違うの?」

「士郎の魔術回路は・・・擬似神経ではない。本物の神経と繋がっている」

「本物と?」

「そうや。士郎の養父が、端から士郎の特異性に気付いておったのか、それとも知らぬ内に正解に辿り着いとったのかは不明やけど、普通の魔術回路のオン・オフを教えなかった。その為に士郎はゼルレッチに師事を受ける前の約三年間、おどれの持つ魔術回路を毎回構成し続け結果論として全ての魔術回路を鍛えに鍛えとったんや。先程の例えで言うならば士郎は穴の数を増やさずに穴をより深く掘り進めておった。その結果はと言えば士郎の奴は二十七っちゅう魔術回路数に見合わない程の大量の魔力を溜め込んでいたんや」

「六年前弟子となった直後ですら士郎の魔術回路は一本につき、通常の魔術回路二十本分の魔力を貯蔵出来たからな」

「へ?じゃあ六年前は・・・実質五百四十本!!」

「「「「「「「・・・・・・」」」」」」」

凛が絶句し残りの面々も言葉を失う。

「じゃあ今は・・・」

「今は・・・五ヶ月前測定した時は一本で五十五本分まで増えたかの~」

「・・・一年で七本魔術回路が増えたって事と同じ意味なんですか?それもたった一代で・・・他の魔術師が聞いたら卒倒・・・いや、それ所じゃすまないわね」

「ええ間違いなく実験材料行きね」

青子が溜息をつく。

「ミス・ブル~溜息をつきたいのは私達なんですが・・・」

「苦労しているようね。士郎みたいなのを彼氏にしていると」

「「!!!」」

いっそばればれな程激しく動揺する遠坂姉妹。

「な、ななな・・・何を言っているんですか!!」

「そ、そうです!!わ、私達はまだ・・・」

「桜!変な誤解招くような事を言わないの!!私は士郎みたいな半人前のへっぽこなんて何とも思っていませんし」

凛の強がった発言に『七夫人』が尋ねる。

全員嫌な笑いを浮かべて。

「あれ?そうなの?」

「でも衛宮君って頼りがいあると思うわよ」

「そうですね。志貴ちゃんに匹敵するほどの戦闘力持っているし」

「衛宮様家事も万能ですし」

「夫がいる私達から見ても衛宮さんは高水準な男性だと思いますわよ」

「そうですね。今の士郎は宝石の原石です。磨けば磨くほどその輝きを増していくのは火を見るより明らかです」

「うん、だから士郎君を先物買いしたほうが良いよ。変な意地張っていると士郎君に逃げられちゃうか他の女性に横から取られちゃうよ」

「い、意地って・・・」

「話を戻すが、とにかく今の士郎は推定で蒼崎に比肩するほどの魔力を保有している。しかし、残念な事に今の士郎はその魔力を使う術を持っておらん」

「そうや。それが今の士郎の弱点や」

「いわば宝の持ち腐れよ。それだけ魔力があっても肝心の士郎には、大魔術なんか使える才能は欠片も持ち合わせていない」

「使用できるのは強化に投影。後は『壊れた幻想』・投影反映・投影接続・『革命幻想』の異端魔術。それだけではどうしようも出来ない」

「おまけに開けっ放しやと魔力も逃げてしまう。それやからホルスターちゅう封印を作って魔力を逃さんようするのが精一杯と言う訳や」

「じゃあ封印していたのは・・・」

「身元隠しと魔力保持の為や」

「まあ、これで済めば良かったがのぉ~」

「ああ・・・」

「まだ何かあるのかよ?」

「ああ。実はこれにはもう一つ最悪な副作用も潜んでいた」

「副作用?」

「ああ、率直に言えば士郎の体内に魔力が溜まり過ぎたんだ」

「いくら大量に入れられたとしてもや。元々士郎が持つ魔術回路は二十七。それを己の寿命縮めかけるほどの荒業で魔術回路を鍛えたおかげで何の支障なくやっているがの・・・」

「だだ、それでも限界がある。定期的に魔力を放出しないと溜め込んだ魔力に押し潰されて、士郎の魔術回路は決壊する」

「その後は・・・わかるでしょう?」

「・・・過剰な魔力が暴走し坊やは即死・・・」

過剰な量は肉体を破壊する典型である。

水も普通は命を繋ぐ、だが、過剰にあれば命を奪う。

人体を癒す薬もそうだ。

空気もそうだ。

人は酸素がなければ活動出来ないがこの酸素、実は身近に最も近い毒でもある。

酸素は濃度が高くなればそれは身体を錆付かせ、急速に蝕んでいく。

それと同じ様に魔力は魔術師にとって必要不可欠だ。

だが、士郎の場合それをあまりにも膨大に持ち過ぎた。

その身体では受け容れられないほどの・・・魔法使いにも匹敵する量の・・・魔力が今の士郎に何をもたらすか・・・短い期間の栄光と引き換えにしての破滅だけだろう。

それはまさしく聖剣・魔剣を手にして破滅と引き換えに歴史に、伝説に名を残す英雄の如く・・・

「大師父・・・その事を士郎は・・・」

「知っておる。だからこそ、身体の負担を覚悟の上で魔力を大量に消費できる異端魔術の数々を自力で編み出したのだからな」

「その意味で言えば士郎の抱く理想が逆に士郎の命を永らえているから」

「さて・・・話は長くなったが、これで答えになったかな?」

「ええ、十分すぎるほどに」

メディアの言葉を持って全員お茶を飲み終えた。

「さて、士郎が眼を覚ますまで暫し時がかかるな」

「せやな。そやったら、ワイらも寝とくか」

「そうね。そうするわ」

そう言い、立ち上がるゼルレッチ・コーバック・青子。

「先生達は?どうするんですか?」

「そうだな・・・一旦戻るのも面倒だ。いつもの部屋を一室使わせてもらおう」

「そうですね。俺は居間で寝ます」

「だったら志貴一緒に寝ようよ」

「それなら私も!」

「「「「「じゃあ私もここで!!」」」」」

「じゃあ私達は自分達の部屋で寝させてもらうわ」

「リン、では私も付き添います」

「サクラ、休みましょう。今日は色々ありすぎましたから」

「うん」

「では私達は・・・」

「確かまだ空いていますから、別々でも一緒でもご自由に使って下さい」

「では・・・宗一郎様・・・ご迷惑でなければ・・・共に閨を」

「マスター我らも休もう」

「ええ、えっと・・・バーサーカー・・・じゃなくてヘラクレス・・・だよね?どうするの?」

「マスターが呼びやすいようだったらクラス名でも構わんぞ。私は中庭でも構わないが」

「ではイリヤスフィール様お召し物を」

「寝巻きに着替えてお寝む」

「んじゃ俺はシロウの所で休ませてもらうわ」

こうして永き夜は過去へと旅立ち新たな段階に歴史は足を踏み入れた。

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